◆対象商標:
「山岸一雄大勝軒」
第30類「つけ麺用の中華麺」等
第43類「つけ麺を主とする飲食物の提供」
◆種別と審判番号:
拒絶査定不服の審決
不服2014-24042
◆審決日:
2016/01/29
◆関連条文:
商標法第4条第1項第8号
本件審判の請求は、成り立たない。
◆理由:
1 商標法第4条第1項第8号について
商標法第4条第1項第8号の趣旨及びその適用については、以下のとおり判示されている。
(1)(商標法第4条第1項第)8号が、他人の肖像又は他人の氏名、名称、著名な略称等を含む商標は、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないと規定した趣旨は、人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。(最高裁平成16年(行ヒ)343号、平成17年7月22日判決)
(2)他人の名称を含む商標については、他人の承諾を得ているものを除いては、商標登録を受けることができないというべきであって、出願人と他人との間で事業内容が競合するかとか、いずれが著名あるいは周知であるといったことは、考慮する必要がないというべきである。(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)10309号、平成21年2月26日判決)
(3)同号(商標法第4条第1項第8号)は、出願人と他人との間での商品又は役務の出所の混同のおそれの有無、いずれかが周知著名であるということなどは考慮せず、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称」を含む商標をもって商標登録を受けることは、そのこと自体によって、その氏名、名称等を有する他人の人格的利益の保護を害するおそれがあるものとみなし、その他人の承諾を得ている場合を除き、商標登録を受けることができないとする趣旨に解されるべきものなのである。(知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)10005号、平成21年5月26日判決)
2 商標法第4条第1項第8号の該当性について
本願商標「山岸一雄大勝軒」の構成中の「山岸一雄」は他人の氏名である「山岸一雄」と同一であるから、本願商標は他人の氏名を含むものである。
そして、他人の氏名を含む商標については、請求人と他人との間で、いずれが著名あるいは周知であるといったことは、考慮する必要はなく、本願商標中の「山岸一雄」と同一の氏名である個人が、少なくとも20名存在し、かつ、請求人は、本願商標を登録することについて、上記の個人から承諾を得たことを証明する書面を提出していない。
したがって、本願商標は、他人の氏名を含む商標であり、かつ、本願商標を登録することについて、当該他人の承諾を得ているものとは認められないものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当する。
3 請求人の主張について
請求人は、本願商標は、「山岸一雄」氏の名前が、つけ麺店の名前として広く知られるようになった店名「大勝軒」と強く結びついた構成であり、本願商標に接する需要者は、つけ麺の店主として著名な山岸一雄氏を想起し、それ以外の同姓同名の山岸一雄氏のことは全く想起しないというべきである。
また、本願商標は、同姓同名の「山岸一雄」の氏名を有する者に対して、本願の指定商品・指定役務との関係では、人格権の毀損が客観的に認められるとはいえない旨主張する。
しかし、商標法第4条第1項第8号の趣旨は、上記の判示のとおり、他人の氏名を含む商標について商標登録を受けることは、そのこと自体が、その氏名を有する他人の人格的利益の保護を害するおそれがあるものとみなすものと解され、請求人と他人との間での商品又は役務の出所の混同のおそれの有無や、いずれかが周知著名であるかどうかは、考慮する必要がない。
本願商標は、他人の氏名を含む商標であって、その他人の承諾を得ているものとは認められないものである以上、同号に該当し、請求人の主張は、採用することができない。
◆コメント:
本審決では、まず「国際自由学園事件」「株式会社オプト事件」「末廣精工株式会社事件」の判決を引用し、商標法第4条第1項第8号に趣旨等について示している。
請求人は、本願商標に接する需要者はつけ麺店の店主として著名な同氏以外は想起しないと主張しているが、同姓同名の方々にとっては自身の氏名が登録商標に含まれていることはあまり良い気はしない(人格権の毀損)と思われるがいかがだろうか。