◆対象商標:
「TIDING」
◆指定商品役務:
第18類「革または布製かばん類,革製もしくは模造の革製かばん,革製もしくは模造の革製財布」
◆種別と異議申立番号:
異議の決定
異議2016-900302
◆異議決定日:
2017/02/13
◆関連条文:
商標法第4条第1項第7号
商標法第4条第項第10号
◆引用商標
中国の登録商標「TIDING」
登録第5862355号商標の商標登録を維持する。
◆理由:
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第10号及び同項第7号に該当すると主張しているので、以下、検討する。
1 商標法第4条第1項第10号該当性について
申立人の主張する程度の販売実績では、引用商標が、申立人の商品「かばん類」について、本件商標の登録出願前及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間において広く認識されていたと認めることはできない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、
(1)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、
(2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、
(3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、
(4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、
(5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合
等が含まれるというべきである(平成21年(行ケ)第10173号、知的財産高等裁判所、平成22年7月15日判決参照)。
これを本件についてみるに、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的など他人に不快な印象を与えるような構成のものではなく、その使用等が、社会の一般的道徳観念に反するものや、法律により禁止されているもの又は国際信義に反するものでもないことは明らかである。
そして、申立人は、引用商標は中国商標権者が考えた造語であり、第三者が偶然同一の商標を採択し商標登録出願するものとは考え難く、引用商標が日本において周知であることを知りながら本件商標権者は出願したものであるから、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある旨を主張する。
しかしながら、申立人は、本件商標がその登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合等に該当することを示す具体的な事実ないし本件商標権者が不正の目的をもって本件商標を登録出願したことを示す証拠を提出してはいない。さらに、引用商標は、上述のとおり、我が国の取引者、需要者の間において広く認識されていたと認めることはできないものである。
してみると、本件商標は、本件商標権者が中国商標権者又は申立人との商取引上の信義則に反し、これが我が国で登録出願されていないことを奇貨として、これらに無断で登録出願をしたことなど、その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあるといえる事情は認められない。
また、申立人は、市場である程度周知になった他者の商標について、本件商標権者が使用する意思もなく商標登録出願を行い、これにより発生した商標権を正当な商標使用者に対して商標権を譲渡することを生業としているのではないかと考えられると主張している。
しかしながら、証拠に示された商標が我が国において周知となっていることを示す証拠はない。また、本件商標権者が商標権を正当な商標使用者に対して商標権を譲渡することを生業としているとの主張にしても、申立人による現時点での推測にとどまるものといわざるを得ず、申立人の上記主張は、いずれも採択することはできない。
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標ということはできない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
◆コメント:
日本国で未登録の商標と同一の商標が権利化されて、異議申立となった事案である。
請求人は、申立人が「商標権を譲渡することを生業としている」可能性があると主張しているが、その証拠はなく、商標法第4条第1項第7号に該当しないとの判断を下した。
「商標権を譲渡することを生業としている」者か否かの判断については、やはり明確な証拠が必要であろう。
妥当な審決であったと考える。