◆対象商標:
「経営士」
◆指定商品役務
第35類「経営の診断又は経営に関する助言」
◆種別と異議申立番号:
異議の決定
異議2017-900184
◆異議決定日:
2018/02/13
◆関連条文:
商標法第3条第1項第1号
商標法第3条第1項第2号
商標法第4条第1項第7号
商標法第4条第1項第10号
◆引用商標
登録異議申立人である「一般社団法人大阪経営士会」が引用する商標は、「経営士」の文字からなり、同人及び特定非営利活動法人日本経営士協会が「経営の診断又は経営に関する助言」について使用し、需要者の間に広く認識されているとするものである。
登録第5932606号商標の商標登録を維持する。
◆理由:
1 「経営士」の文字の使用状況について
申立人提出の証拠等から、「経営士」の文字は、本件商標の登録査定時に、その指定役務の分野において、特定の役務の名称や内容等を表示するものとして一般に広く使用されていたとはいえないものであり、特定の役務の名称や質を直接的に表示したものとして認識されることはないといわざるを得ない。
2 商標法第3条第1項第1号及び同第2号該当性について
(1)本件商標「経営士」は、上記のとおり、特定の役務の名称を表すものとして一般に広く使用されているといった事実及びその役務について慣用されている商標といった事実は認められないものであるから、本件商標の指定役務の分野において、役務の一般的な名称又は慣用されている商標であると認識されているとはいえない。
したがって、本件商標を構成する「経営士」の文字は、自己の役務と他人の役務とを識別することができる、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものである。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項第1号及び同第2号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標は、上記のとおり、申立人の業務に係る役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されているとは認められないものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、「経営士」の文字からなるところ、全体がわずか3文字のみから構成され、一連に表示されており、その語義上も一体のものと理解されることからすれば、その全体が取引者、需要者の注意を惹く要部であると認められる。
そして、一般国民が、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家資格を付与された者を表していると理解することが多いと一般的にはいうことができても、本件においては、本件商標を構成する「経営士」と同一又は類似する名称の国家資格は存在しないばかりでなく、「経営士」と同一又は類似する名称が、他の法律によって、その使用を制限されているといった事実も見いだし得ないところである。
してみれば、本件商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が、国家資格を表す名称の一つであるかのごとく誤認、誤信を生ずるおそれがあるものとは認められず、また、国家資格等の制度に対する社会的信頼を失わせるものということはできない。
なお、本件商標権者のウェブサイトによれば、本件商標権者は、昭和26年9月25日に「日本経営士会」として発足し、昭和30年1月1日に「社団法人」として認可され、平成25年4月1日に「一般社団法人」に移行し、現在に至り、創立60余年を迎えており、その会員数は正会員1,140名である。
また、経営士称号認定に関する規程を定めて、毎年5月と11月に試験を実施し、平成29年11月の試験で、100回を迎え、経営士称号認定のほか、経営支援等に関する人材育成、経営支援等に関する普及啓発、表彰、調査・研究、情報の収集・提供、内外関係機関等との交流・連携、行政・産業界への提言等の活動を行ってきたことを窺い知ることができる。
そうすると、本件商標は、本件商標権者の資格称号の出願に係るものであること、本件商標権者は、昭和26年に設立されてから現在まで約60余年にわたり、経営支援活動の充実等を目的とする多様な活動を続けてきた団体であること、本件商標権者は、上記活動の一環として、現在まで100回にわたり、経営士の称号の認定を与えてきたものであることなどの事情に照らせば、本件商標権者が、自己のために「経営士」の文字からなる本件商標につき、「経営の診断又は経営に関する助言」を指定役務として商標登録出願したことは、その行為の目的、態様に照らして社会的に相当なものということができる。
してみると、本件商標は、国家資格等との誤認・誤信を生ずるおそれの有無の観点から検討しても、その出願に至る経緯に照らせば、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に当たるということはできない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
◆コメント:
「士」が末尾につく名称は、本審決でも触れているように国家資格を有している者と理解されることが多いが、必ずしも国家資格である必要はなく、「経営士」という文字の使用を制限している法律もないようである。
また、本審決の判断における最も大きなポイントは出願人が60年を超える期間、経営支援活動に関して多様な活動をしている点にあるのであろう。