◆対象商標:
「河藤流」
◆指定商品役務:
第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」等
◆種別と異議申立番号:
異議の決定
異議2017-900325
◆異議決定日:
2018/01/30
◆関連条文:
商標法第4条第1項第7号
登録第5971327号商標の商標登録を維持する。
◆理由:
(1)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。
また、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきものであれば、そのような場合にまで、「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(平成14年(行ケ)第616号、平成19年(行ケ)第10391号)。
イ 申立人の主張について
(ア)申立人は、本件商標の出願の経緯について、「申立人は出願人の星野に対し、河藤流の三代目家元に指名したことも、継承するよう言ったこともなく、『河藤涌光』を襲名してよいと言ったこともないのであって、星野が勝手に名乗っているものである。まして、本件商標を出願申請することについて、申立人は星野に対し、承認・了解したことはない。」旨を主張し、本件商標の権利者に通知書を送付している。
しかしながら、申立人の主張する「本件商標の商標権者である星野は、河藤流の門弟の一人であり、『河藤雅音』という舞踊名を与えられ、活動を行っていた。星野は、陽子の死亡後、申立人から『河藤流のことは雅音さんに委ねます。』などと言われたとして、河藤流の三代目家元として『河藤涌光』を襲名する旨を表明した。
また、平成29年5月26日、本件商標の出願申請を行った。」との経緯をみると、当該通知書の存在のみをもって、本件商標の出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような事情が存在したと、直ちに判断することはできない。
(イ)申立人は、「陽子の相続人は、申立人ただ一人である。申立人は、陽子の死亡後、河藤流創作邦舞株式会社の代表取締役に就いた・・・河藤流は、初代家元・宗家である達郎が創流し、二代目家元である陽子が発展させた舞踊の流派の一つを意味し、また、家元を頂点とする団体を意味するのであって、家元ではない一個人が独占的に使用できるものではない」旨を主張している。
しかしながら、「河藤流」が、家元「河野たつろ」及びその長女である後継者「河藤涌光」を中心に発展・普及してきた日本舞踊の流派であるとしても、提出された証拠からは、申立人が「河藤流」の家元又は宗家の地位を承継したか否かも不明であり、本来、登録を受けるべき者ともいい難い。また、二代目家元の存命中、あるいは同人死亡後において、申立人自身がすみやかに出願できたにもかかわらず、出願していない。
ウ 判断
以上からすると、本件商標について、商標法の先願登録主義を上回るような、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあるということはできないし、商標権者と申立人との間の、家元の地位や商標権の帰属等を巡る問題は、あくまでも、当事者間の私的な問題として解決すべきであるから、公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。
その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足る証拠もない。
してみると、商標権者が、本件商標の登録出願をし、登録を受ける行為が「公の秩序や善良の風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第8号該当性について
ア 商標法第4条第1項第8号が一定の人格的利益を保護するものであることからすると、ある商標登録が同号に該当すると判断されるためには、当該商標に係る人格的利益の帰属主体(自然人又は団体)が特定されることが必要である(平成20(行ケ)第10323号知財高裁平成21年10月30日判決)。
イ 申立人は、「団体としての河藤流は、『河藤流』という名称を、自らを示す標章として河藤流の教授の際に使用するほか、公演を主催する場合や師範らが各種公演に出演する場合等に自ら使用していた。・・・河藤流は、家元を頂点とする団体の名称でもあり、上記述べたとおり星野は家元を継承した事実はなく、団体としての河藤流と星野とは別個のものであるから、星野との関係でいえば『他人』に該当する。」旨を主張している。
しかしながら、申立人の主張する「団体としての河藤流」について、該当する団体の名称、規約、構成員、活動内容等、当該団体の実態を示す証拠の提出はないことから、当該団体を具体的に把握することができない。
してみると、本件商標は、その人格的利益の帰属主体となるべき主体を特定することができないため、商標法第4条第1項第8号にいう「他人の名称」に該当するものと認めることができない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
◆コメント
商標法第4条第1項第7号について、当事者同士で私的な問題を解決すべきものは適用しないとのコンマー事件判決を踏襲している。
妥当な審決であったと考える。